水分補給

透明な尿は、本当に十分な水分補給を意味するのか?!

アスリートや一般の人々の間では、尿の色が透明であれば最適な水分補給ができるという誤解がよくあります。尿の色は、水分補給の状態が日々どのように変動するかを理解するのに役立ちますが、おしっこが透明になるまで飲むことは、最適な健康状態やパフォーマンスへの適切な対処法であるとは限りません。

尿のカラーチャート – あなたの尿は何色?

私はプロスポーツチームのロッカールームに行くたびに、必ずトイレを訪問します。

多くの場合、これは純粋に私の生理的欲求に答えているだけですが、本当にトイレに行く必要がなくても、私は普段から専門的な興味から言い訳をしてちょっとトイレを見に行くことが多いです。

さて、これは少し奇妙に聞こえるかもしれませんが、よく聞いてください。私が探しに行くのは、トイレの壁に貼られた「Armstrong Chart」です。

Armstrong Chart(尿のカラーチャート)は、DIYショップで見かけるような塗料の色見本に少し似ています。これは、オフホワイトからさまざまな色合いの黄色を経て、緑がかった茶色へと徐々に変化していくまで、8つの色相で示されています。

画像出典:Wikimedia(著作権フリー)

このカラーチャートは、エリートスポーツ施設のほぼすべてのトイレで見かけることができます。過去10年間に訪れたNBA、NFL、MLB、NHL、NCAAカレッジ、プレミアリーグのサッカーチーム、ラグビーチームのトイレでもこれを見かけました。

尿のカラーチャートの有効性は?

Armstrong Chartの名前は、尿量に細心の注意を払うという概念を「発明」したローレンス・E・アームストロング博士に由来し、International Journal of Sportに掲載された2つの論文で水分補給状態を予測するためのチャートの精度を検証しようとしたことで最も有名です。

チームスポーツの環境では、これらのポスターには、チーム経営陣からの挑発的な格言が追加されるていることがよくあります。例えば「1~3ゾーンにいなければ、自分を失望させ、チームメイトを失望させるだろう。そんなことがないように – もし君が7~8(暗い)ゾーンにいたら、あなたは間違いなく 「脱水症状 」に分類され、標準以下のプレイヤーであり、もっと水分を摂取する必要がある!」のようなものです。

私は、このチャートと、それを検証するのに役立った研究の広範囲かつ精力的な推進が、スポーツ選手が尿の色(そしてそれがどのような水分補給の状態を意味するのか)にこだわる主な理由であると信じています。

しかし、最近の研究では、尿マーカーだけで水分補給の状態を監視することが、どの程度有効かという疑問が投げかけられています。

私は、最近のBritish Medical Journalの論文「Dehydration is how you define it: comparison of 318 blood and urine athlete spot checks」の筆頭著者であるタマラ・ヒュー=バトラー博士(昨年、スポーツにおける低ナトリウム血症の原因に関するいくつかの研究で共同研究を行った)に、彼女の研究から得られるアスリートにとって重要なポイントを簡単にまとめてもらいました。

「尿検査は安くて簡単なので、脱水状態と 『透明でない尿』(つまり黄色から茶色)を同一視することは、スポーツのコーチやトレーナーの間で広まっています。さらに、カラーチャートはとてもクールで、誰もが自分を専門家であるかのような気分にさせます。
しかし、これらの尿のカラーチャートの背後にある理論は、主に体重の変化(これも安価で測定しやすい値)と尿変数(すなわち、色対尿比重と浸透圧)から生まれました。」

色の濃い尿は脱水症状を意味するのか?

ヒュー・バトラー博士は続けて、

私たちのように尿と血液の変数を比較した研究はほとんどありません。細胞の水分補給の血液マーカー(医師が患者の水分補給状態を評価する際に見るもの)を調べた研究では、細胞の脱水(血中ナトリウムが145mmol/L以上、または 「高ナトリウム血症」)と尿濃度との間には相関がないことが分かりました。
私たちの体は、体内で水分を保持したり、排出する水分量を変えることによって、細胞を脱水状態にならないように守っています。つまり、濃い色の尿が出る時は、私たちの体が細胞を維持するために水分を必要としていることを意味します。
体が必要とする以上の水分を飲んだときだけ、透明で大量の尿が分泌されます。したがって、(必要以上に)飲めば飲むほど、尿の量は増えるのです。」

つまり、ヒュー・バトラー博士が本質的に言っているのは、私たちが水分を飲む量と尿の色の間には確かに関係はあるが、それは必ずしも血液や細胞レベルでの実際の水分補給状態と必ずしも相関している訳ではないということです(最も重要なところです)。

というのも、ほとんどのアスリートに当てはまることですが、「透明な尿にする」ことへの強迫観念をアスリートに宣伝するには、必ずしも最適で有益なメッセージとは❝限らない❞と感じることが増えてきたからです。私自身も含めて、長年にわたってスポーツ選手(エリートからアマチュアまで)と接する中で、かなり疑わしい結果を引き起こすのを見てきました。状況によっては逆効果になることもあると言っても過言ではありません。

「透明な尿=十分な水分補給」というメッセージがあまりにも強く押し出されているため、モチベーションの高いアスリートが、透明な尿にするために日常的に水を飲み過ぎているのを目の当たりにしてきました。私自身、過去にフルタイムのトレーニングをしていた頃(そしてプレシジョンの水分補給戦略に参加する前)に、間違いなくこの罪を犯していました。

また、多くのアスリートが競技直前に意識的に飲み過ぎてしまうのもこのためです。これは、低ナトリウム血症(体内のナトリウムレベルの希釈)に関連する問題につながる可能性があり、競技を台無しにし、極端な場合には生命を脅かすことさえあります。

とんでもない例を挙げると、NFLの先発のワイドレシーバーである著名な選手と話をしたことがありますが、彼は、各試合が始まる前に少なくとも2回は「サイドラインでおしっこを漏らす」ほど水を飲まなければ、最高のパフォーマンスを発揮するのに十分な「水分補給」ができていないと断言していました。

組織的な意向でコーチやスポーツ医学のスタッフがアスリートにプレッシャーをかけているのを見てきました。「尿比重」や「尿浸透圧」を日常的に検査し尿が濃い色だったアスリートには罰則が科されることもあります。

その結果、尿検査の前に過剰な水の飲み過ぎが起こったり、更衣室で尿サンプルを水で薄めたりすることさえあります。これは冗談ではありません。 プロからのアドバイスとしては、これを行う場合は、温水を使うこと。そうしないと、尿の検査担当者は、あなたが冷たい尿の入ったコップを渡したら不審に思うかもしれないですよ。

水分補給の唯一の重要な指標として尿の色にこれほど特別な重点を置くことは、水分を適切に飲むことよりもむしろ過剰に摂取するようアスリートを煽ることになります。

また、慢性的な脱水症状は間違いなく悪いことではありますが、慢性的な飲み過ぎ(特に普通の水)や、尿がずっと透明であることを確認するためだけに必要以上に頻繁に排尿を体に強いる行為が身体に良くないというメッセージを十分に伝えることもできません。

スポーツ医学の分野では(公平を期すために言えば、人生のほとんどの分野で)、簡単に計測/数値化できる指標の測定と改善に重点を置く傾向があり、これは水分補給の状態を数値化しようとする探求の中で、顕著に起こっているようです。

尿の色と水分補給状態の関係

水分補給の状態をほとんどのコーチやアスリートが正しく把握することが重要です。ここで問題なのは、尿の色は確かに水分補給の状態をある程度示すことは可能ですが、実際の水分補給の状態と尿の色との間には単純で直線的な関係はないということです。ごく少量の濃い尿が頻繁に出ることは、実際の脱水症状の兆候である可能性がありますが、必ずしもそうであるとは限りません。

これらの点を念頭に置くと、尿の色に影響を与える要因は他にも数多くあり(この優れた記事が指摘しているように)以下のようなものがあります…

  • 飲酒
  • お茶、コーヒー、その他の利尿作用のある飲み物をたくさん飲む
  • 冷たい水の中で泳ぐ(寒冷利尿および/または浸透圧利尿のため)
  • 短時間に大量の水を飲む
  • 神経
  • 特定の薬の服用

ですから、複雑な要因を一概に「このカラーチャートでは尿は1〜3であるべきだ」とか「水分補給が足りていない!」など、過度に単純化した表現に落とし込むことは危険です。多くの人にとってそれは当てはまるかもしれませんが、多くの身体からのシグナルを見逃し、重要なメッセージが誤って解釈され、実際には役に立たない、もしくは有害な行動を誘発する可能性があります。つまり、過度の飲み過ぎを助長することになります。

ここでアインシュタインの名言を思い出してください。「物事はできる限りシンプルにすべきだ。しかし、シンプル過ぎてもいけない。

尿の色と脱水 – 実践編

「Armstrong Chart」アプローチの弱点はあるものの、この指標だけを過信しすぎない限り、時々自分の尿の色に注目することは、水分補給の状態を管理する上でとても役立つツールになると言えます。

もしあなたがいつも「1」よりも「8」に近いのであれば、特にハードワークで汗をたくさん流す時に、もう少し水やスポーツドリンクを摂取してみる価値があるかもしれません。それで自分がどのように感じるか、そしてそれが有益かどうかを確かめてみてください。

逆に、常に1〜2の色の尿が見られる場合は、水分摂取量を少し減らして、水分の摂りすぎかどうかを確認してみてはどうでしょうか。

繰り返しになりますが、これらの調整を行った後、全体的にどのように感じるかが、結果として良くなったか悪くなったかの最良の判断材料になりますし、もちろんそれが実際には最も重要なことなのです。

しかし、尿が透明であれば間違いなく水分補給ができており、そうでなければ間違いなく脱水状態だという過度に単純化された考えから離れることが重要だと考えます。

これは常に当てはまるわけではなく、尿が透明になるまで水を飲んだりすることは、最適な健康やパフォーマンスへの最適解ではありません。その結果、近い将来、これらの尿のカラーチャートのいくつかがトイレの壁から取り外されるのを見ことができれば喜ばしいことだと思います。または、メッセージをもう少し的確な表現に変える必要があります。

一般的には、アスリートが自分の身体をセルフモニタリングし、少しでも理解できるように促すのは良いアイデアです。しかし、これらの促しが本当に有益な行動の展開を「後押し」することが重要であり、今回のケースでは、私たちは偏った方向に少し迷走しすぎたように感じます。

参考文献

アンディ・ブロウ

最高経営責任者(CEO)兼スポーツサイエンティスト

※本記事は英語の記事を翻訳したものです。原文を読む

Precision Fuel & Hydration とその従業員および代表者は医療専門家ではなく、いかなる種類の医師免許や資格も保有しておらず、医療行為も行っていません。 Precision Fuel & Hydration が提供する情報およびアドバイスは、医学的なアドバイスではありません。 Precision Fuel & Hydration が提供するアドバイスや情報に関して医学的な質問がある場合は、医師または他の医療専門家に相談する必要があります。当記事の内容については公平かつ正確を期していますが、利用の結果生じたトラブルに関する責任は負いかねますのでご了承ください。

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